桜花舞うとき、きみを想う


それにしても専務という人は、とぼくは布団の中で考えた。

ご令嬢との見合い話を断ったぼくの結婚を、ここまで祝ってくださるとは、よほど懐が深い人のようだ。

本当に父が言う通り、面白味のない男に嫁がずに済んで良かったと思われているのだとしたら、それはそれで複雑とも思うが、この際それは考えないほうがよさそうだった。



きみとの会話も途切れ、ぼくはうつらうつらと眠りに落ち始めた。

そのとき、きみが小さな声でぼくを呼んだ。



「ねえ、礼二さん」



ぼくは、んー、と気のない返事をした。

するときみは、きみに背を向けて寝ていたぼくの肩を揺すった。

「なんだい」

ぼくが眠りかけていた体を起こすと、さっきまで子供の顔で笑っていたきみが、どこか浮かない顔をしていた。



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