桜花舞うとき、きみを想う
「起こしてしまってごめんなさい。でもやっぱり気になって」
暗がりでも、きみが今にも泣き出しそうだということがわかった。
「大丈夫だよ。それより、気になるって何がだい」
ぼくは布団を出て、きみの正面に胡坐を掻いた。
「あのね、あの、礼二さんは、兵隊さんに取られたりしないわよね」
それは、虫の鳴き声しか聞こえない静まり返った部屋でも耳を澄まさないと聞こえないほどの声だった。
「どうしたの、急に」
「わたし、礼二さんには戦場に行って欲しくないの」
きみは、そう言ってぼくの寝巻きの袖を掴んだ。
「そんな滅多なこと、口にするものじゃないよ」
「こんなところの会話なんて誰も聞いてやしないわ。ねえ、大丈夫よね」