桜花舞うとき、きみを想う
ぼくは暗がりの中できみの不安に満ちた顔を見ながら、きみに求婚したときのことを思い出した。
あのとききみは、ぼくが緊張して無愛想だったせいで、ぼくに召集令状が来たのだと勘違いして泣いた。
ぼくは笑い飛ばしたけれど、きみにとってはまるで笑い事なんかではなかったのだ。
「アヤ子」
子供をあやすように、ぼくはきみの頭を撫でた。
「ぼくはまだ19だ。学徒動員では徴兵されるのは20歳以上と決まってる」
何とかきみを安心させたかった。
事実、徴兵条件を満たしていないことに加え、長男が徴兵された今となっては、よほど人員に不足がない限りぼくの元に召集令状が来ることはないだろうというのが、ぼくの予想だった。
「だから、心配することないよ」
けれど、ぼくの言葉に顔を上げたきみの表情は、まだ固いままだった。
「わたしね、こんなこと言ったら気を悪くするでしょうけど」
きみが涙声でそう言って、ひと呼吸置いた。