桜花舞うとき、きみを想う
ある夏の日曜日の昼下がり、父がぼくに縁談の話を持って来た。
ぼくは19歳で、大学生だった。
まだ早いと言う母の言葉に耳を貸さず、父はぼくに見合いをしろと言った。
相手は父が働く綿商社の専務の令嬢で、我が家にはもったいないほどの話だった。
「幸一が戦地から戻るまでは、次男のお前が頼りだ。早いうちに身を固めておくのも悪くないだろう」
「でもお父さん、ぼくは」
「何だ」
「ぼくには、その…」
「はっきり言ってみなさい」
このとき、ぼくの頭に浮かんでいたのは、言うまでもない、きみの顔だった。
「ぼくには、想う人があります!」