桜花舞うとき、きみを想う


その日の夕方、いつも通りの講義を終え家に帰ると、母がいなかった。

「ご近所の三谷さんの息子さんが戦死なさったからって、出て行かれたわ」

と、きみが教えてくれた。

「そう」

(今度は、三谷さんか…)

日を追うにつれ、近所でもそういう話が増えた。

母はその度に、

『お悔やみを申し上げたいけれど、おめでとうございますと言わなくちゃならないなんて、嫌なものね』

と沈んだ顔をした。

ぼくはそれを聞くといつも、

『そんな下手なこと、外で口に出さないでくれよ』

と釘をさした。

非国民と言われないために。



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