桜花舞うとき、きみを想う
「それならお願いついでに、もうひとついいかしら」
「なんだい」
「いつか、新婚旅行のもうひとつの候補だった箱根にも行ってみたいの。礼二さんは行ったことあるんでしょう。案内してちょうだい」
「お安い御用だ」
ぼくは、どうせならふたり揃って新しい着物を仕立てて、とびきり高級な旅館でのんびりと過ごそう、ときみに言った。
いつの日か、必ず出来ると信じていた。
伊豆の開放的な空気が、ぼくをそうさせた。
「いい旅だったな」
「ええ」
それだけ言って、ぼくらは黙った。
大の字のぼくの隣で、きみは背筋を伸ばして正座をしている。
ぼくはこの幸せを噛み締め、波の音を聞きながら、この旅で交わしたいくつかの約束に思いを馳せていた。