桜花舞うとき、きみを想う
このときのぼくにとって、戦争というのはこの国の出来事でありながらも、どこか遠い場所で起こっていることのようだった。
近所の知り合いが戦死しても、兄の行方が知れなくとも、どうしてもそれを現実と結びつけることができずに、他人事のように感じていた。
こんなぼくを兄が見たら、きっと呆れるだろう。
それでも日本男児かと怒鳴られるかもしれない。
(まあいいさ。兄が服務を解かれて復員したら、久しぶりに叱り付けられるのも悪くない)
今頃どこでどうしているのか。
きっと訓練と実戦で鍛えられて、見違えるほど逞しくなっているのだろう。
ぼくは畳の上に大の字に寝転がったまま、そんなことを考えるうち、眠りについていた。
やがて、もう出発時間よ、ときみに起こされるまでずっと、懐かしい兄の夢を見ていた。
それくらい、ぼくは呑気だった。