桜花舞うとき、きみを想う
ぼくは広田の皮肉めいた言い方が気に入らなかった。
「よせよ、そんな言い方。毎日帰ってから、父に仕事の知識を叩き込まれているんだ。こっちはこっちで忙しいんだよ」
「ああ、お前の父上は綿商社勤めだったな。今から教育が始まってるわけか」
その役目は、本来は兄のものだった。
しかし戦地に出て1年も経つと、最初こそ便りがあったものの、すっかり音沙汰がなくなり、どこにいるのかわからなければ安否も不明だった。
ぼくは、そんな兄に代わり、父から綿花取引のいろはを学んでいた。
戦況が気にならないわけではないが、そこに時間を取られている余裕はなかった。
「しかし中園、そうも言っていられないぞ。そろそろというのは、俺たちにもお呼びがかかりそうだということだ」
「お呼び?」
「まったく鈍いな、きみは。召集されるってことだよ」
「召集って、ぼくらが?まさか」
笑ってかわそうとしたけれど、広田の顔は少しも笑っていなかった。