桜花舞うとき、きみを想う
妹のようだったきみのことを、女性として意識したのは、きみが16歳になった頃のことだ。
特別なきっかけがあったわけではない。
ただ、ぼくの隣を歩く少し大人びたきみの横顔を見て、美しいと思った。
きみはいつの頃からか、ぼくを礼二さんと呼ぶようになっていた。
(もう、子供ではないのだな)
そう思った途端、きみの何もかもを独り占めしたくなった。
「アヤ子さんは、お前の気持ちを知っているのか」
父がぼくに訊ねた。
「いえ、そういった話はしたことがありません」
事実、これまでぼくは、きみにそうとは悟られないよう接してきた。
父は、うーんと低く唸って、腕を組んだまま黙り込んだ。
その顔からは、父が何を考えているのか読み取ることはできなかった。