桜花舞うとき、きみを想う
いよいよ寒さが増して、日が落ちてから外を歩くのが辛い季節になった。
月日の流れは早く、突然の来訪者がもたらした悲報から、もう2ヶ月が経とうとしていた。
「中園、母上の様子はどうだ」
広田は、何かにつけぼくの家族を案じてくれた。
「だいぶ落ち着いてきたよ。だけど、まだ形見の眼鏡には触れようとしない」
居間の仏壇には、あの日杉田さんが届けてくれた兄の眼鏡が置かれていた。
母は毎日それに手を合わせ、涙を流した。
何日経っても、同じように涙を流した。
皆は時が経てば癒えると言ったが、愛息を失った母の悲しみを癒すには2ヶ月では足りないようだった。
もちろん兄の戦死の報せは、母だけでなく、兄を知るすべての人々に衝撃を与えたことは言うまでもない。
加えて、そのときのぼくには、兄の戦死に関して気を揉んでやまない問題があった。