アゲハ~約束~
 ――――ああ、いつもの。

 家を確認したときの、家人のこの表情は、何度見てもつらい。


 傷に塩を塗りこまれたような顔をするのだ。


 その気持ちは、わかる。

 死んでしまった人を訪ねてきた人間を、どうやって帰らせていいものか、悩むところだ。

 けれど、アゲハが用があるのは生きている人間だ。

 彼女は柔く微笑むと、そっと封筒を差し出した。



「・・・あの墜落した飛行機に、乗られていましたよね?上田美佐子さん・・・。」

「・・・ああ。」

「私の知り合いも、同乗していました。これは・・・彼が、搭乗前に上田さんと撮った写真です。」

「――――っ・・・」 



 それを聞いて、彼はあわてて封筒を受け取ると、写真を中から取り出した。

 そこでは確かに、彼女がこの住所を書いたスケッチブックを持って、笑っている。


 こっちに向けて、笑っている。




「美佐子っ・・・」




< 103 / 146 >

この作品をシェア

pagetop