アゲハ~約束~
「ショックでしょうがなくて、このざまだ。漁に出なきゃいけないんだよ、ふさいでたって、美佐子は帰ってこないんだ。判ってる。・・・なのに・・・体が思うように動いてくれなくて。」



 情けない話なんだけど。

 彼が苦笑いすると、アゲハは、そんなことありませんという代わりに首を振った。



「私も・・・そうでしたから。」

「・・・」

「私は・・・彼が残してくれたこの写真たちに、救われました。」



 アゲハのその言葉に、幸人と夏梅は数ヶ月前までのアゲハを思い出す。


 壊れた人形のようだったアゲハ。


 どうしたら元に戻ってくれるのか、わからずにいた。





 自分たちの無力さを、痛感させられた日々だった。



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