アゲハ~約束~
「ゆきっ・・・」



 彼女の言葉を聞く間も惜しくて、何も言わずただその手をつかんで、海岸へ引っ張り戻した。

 ちょうどそのとき夏梅が追いついて、海の縁に座り込む二人に駆け寄る。

 ぐっしょりと濡れたアゲハの服に、彼女は何があったのかをすぐに察知したらしく、駆け寄ったままの勢いでアゲハの頬を打った。



「バカ!!!」

「っ・・・」

「何で!?何でそんなことするの!?」

「・・・」

「アゲハ!」

「――――っ・・・」



 アゲハは、無言のまま立ち上がる。

 そしてまた海に向かって走り出そうとするから、あわてて幸人はその腕をつかみ、動けないように抱きしめた。


 彼女の体は、驚くほど冷たかった。


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