アゲハ~約束~
(アゲハはなぁ・・・)



 黙りこんだまま、彼は椅子に浅く座り、背もたれに首まで預ける。


 自薦でも他薦でも、今アゲハを一番理解しているのは、自分だといえる自信が、自分にはある。



 ずっと傍で見てきたから。



 ―――普段のアゲハは、決して人嫌いだとか、そういうわけではない。

 多いほうではないが友達もいるし、それなりに付き合いだって悪くないほうだ。

 けれど、彼女が苦手なタイプが一ついる。

 ルフナの様な、まっすぐで素直なタイプだ。

 ああいうタイプは、気軽に「約束」を口にする。

 だから、いやだ。



 ―――以前アゲハは、そんなことを言っていた。



 約束が嫌い。

 約束を信じない。

 いまだ迎えに来ないアゲハの両親の口にした「約束」は、アゲハの心に深い傷をつけ続けている。



 いつになれば癒えるとも、判らない。




「・・・でも、大人気ないぞ。」

「・・・判ってる。」



 でも、同い年の幸人に言われたくない。

 すこしむくれたように口先を尖らせて、彼女は顔をこちらに向けた。

 それを見て、幸人は、ごめんごめんといいながら、アゲハの頭をなでた。



「でもさ、アゲハ。・・・たまにはいやなタイプの人間とも、過ごしてみようぜ。もしかしたら、案外いいもんが見つかるかもしれない。」



 人生経験は、大事。

 これも同い年の彼に言われたくなかったのかアゲハは幸人をにらむ。


 けれど図星だったのか――・・・

 何も言わずに視線を落とした。

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