アゲハ~約束~
「・・・綺麗・・・」



 ちょうどいいときに、花見に来たらしい。

 風がそよぐと花びらがはらはらとまって、地面にはピンク色のじゅうたんが出来ている。

 あまり人の来ないそこは踏み荒らされた様子もなく、アゲハは、無言のままそこに寝転んだ。

 瞳を閉じたまま、そっと耳を澄ませば、遠くで聞こえる子供たちの笑い声。


 風の音。


 ―――心地がよかった。


 この、一歩引いたところから聞こえる世界が、とても好きだと思えた。


 そのとき―――・・・


 パラッ



「?」



 奇妙な音が、耳に入ってきた。近くから。

 驚いて目を開けると、そこには・・・カメラを構えた、ルフナの姿。

 驚いて、アゲハは飛び起き後ずさる。



「あはは、起きた起きた。びっくりしたよ。一瞬。」



 そういって、また彼は一枚、写真を撮る。

 びっくりした顔のままのアゲハが、フィルムにおさまってしまった。



「か、勝手に撮らないでよ!」



 彼に初めて話しかけた言葉がそれだったことは、すこし反省の余地ありだ。

 けれど、ルフナはそんなこと気にせずに笑う。

 そして、アゲハがさっきしたように、今度は自分が桜のじゅうたんの中に寝転び、空にファインダーを向けた。



「いや、いいね、ここ。アゲハの秘密の場所?」

「・・・」

「すごく、素敵な場所だ。」



 そういって、おおきく息を吸い込む。

 それからふんっと勢いをつけて起き上がる。

 髪や身体についた桜をそのままにしているから、へろへろな外見が、もっと情けなく見えた。


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