アゲハ~約束~
「・・・大嫌いって、いわれちゃって。」

「・・・アゲハに?」

「はい。」

「・・・彼女に何を?」




 園長の言葉は、いたって穏やかだ。

 けれどルフナはなんとなく、怒られている子供のような気分になってしゅんと頭をたれる。

 そして、アゲハの写真を撮ったことと、アゲハにかけた言葉のことを、彼女に話した。



「それで・・・ご両親はその約束を君にも当てはめられるように同じ名前をつけたんだねって・・・すごく愛してたんだねって・・・」



 いい台詞を吐いたつもりは毛頭ない。

 けれど、それほどいけないことをいったとも思えない自分には、彼女が一体何に腹を立てたのかがまったくわからなかった。



「・・・ウォーカーさん・・・」



 園長はため息をつくと、持っていたゴミ袋を地面に置いて、彼を見上げた。



「・・・ここはね。家にいろんな事情を持った子供たちが集まる場所なんです。・・・貴方は、アゲハに、言ってはいけないことをいってしまった。」

「え・・・?」

「アゲハはね。三歳のころにうちに来たの。ご両親は、必ず迎えに来ると約束したわ。・・・でも・・・アゲハが中学を卒業した今になっても、手紙の一通すら来ない。ただ、養育費が毎月振り込まれるだけ―――・・・」

「・・・」

「・・・その事実を知った上で、親から愛されているといわれても・・・あの子はまだ、笑って受け流せるほど、大人ではありません。」



 彼女は、寂しそうに、あの人たちは今どこにいるのかしら、と小さな声で呟いた後、ルフナと向き合い、きっぱりといった。


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