アゲハ~約束~
 飛行機が無事なら、その後、旅の思い出としてその写真を一人一人に送付していたから。


 最後になる「かもしれない」、思い出作り。

 彼はそれをとても大切にしていた。

 アゲハは、彼女に、封筒を開けるように言った。

 彼女はいわれたとおりに封筒を開ける。

 そして――・・・言葉を、失った。

 そこに映っているのは、二人の人物。

 一人は金髪の男性。そしてもう一人は、今、アゲハのいるこの場所の住所を書いたスケッチブックを持った女性―――・・・

 アゲハの見せた写真の中で、女性は、満面の笑みを浮かべていた。


『キャロル―――・・・!!!』



 女性は口元を多い、目に涙を浮かべて、はっとアゲハを見やった。

 アゲハは微笑んで、彼女の肩を、慰めるように優しくさする。



『彼女の最後の笑顔を、届けに来ました。私の用事は、これだけです。』



 どうぞ、彼女のことを、忘れないでください。

 アゲハがそういうと、女性は、小さな声で、「忘れるものですか」と、呟いた。

 そうして何度もうなづいて、アゲハに、潤んだ瞳で笑顔を見せる。



『ありがとう。ありがとう。』



 そういって、アゲハを抱きしめ、涙をながした。

 後ろで、あとの二人はその様をただ黙ってじっと見ている。

 そこには何か、自分達は入り込んでゆけないような空気がある気がして、近寄れず。

 ただそこで泣き崩れる女性の胸に抱きしめられた自分達の幼馴染の小さい背中を見詰めていた。


 そして最後に、再び軽いハグと握手を交わし、アゲハは、その家を去る。


 女性に見送られ、家から出て背を向けた瞬間、緊張の糸が緩んで鼻の奥がつんとするのを、アゲハは鼻の根元をつまんで押さえた。

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