アゲハ~約束~
 どこかの映画で見た、涙を抑える方法だった。


 どの家でも、そう。

 写真を渡すと、とても嬉しそうな笑顔を見せて、なんどもありがとうといってくれる。

 ―――それが、アゲハはうれしかった。



 アゲハがこの旅を始めて、二ヶ月が過ぎた。

 見知らぬ土地で、住所と、下見で使った地図だけを頼りに見知らぬ人を訪ねるのには、どうしてか、ずっと慣れない。

 けれど、彼女がこの旅をやめることは到底ありえなかった。

 なぜならそれが、自分に課せられた最後の仕事だと思っているからだ。



「ルー・・・」



 空を見上げて、呟く。―――いつかと同じような、抜けるような青空。

 そして彼女は、ポケットからシルバーの携帯を取り出し、見つめた。



「・・・私、ちゃんとやるからね。」



 携帯に、電源は入っていない。電池が切れているのだ。――――あの日から。

 あの日、というのは、先の話題に出ていた、飛行機事故のあった日。

 三ヶ月前の、二月二十八日だ。あの日偶然電池が切れて以来、一度も電源を入れられることなく、ただお守りのようにアゲハのポケットに入っている。

 使用の携帯は、ちゃんと持っている。この携帯も、電源を入れさえすれば使える。

 料金を二つ分払ってまでその携帯を持っているのは、それが、今のアゲハを支えるいくつかのものの一つになっているからだ。

 アゲハを支えるいくつかのもの。

 それは全て、一人の人のにまつわるもの。

 あの、飛行機事故で死んだ一人の男性。ルフナ=ウォーカー。


 アゲハの、恋人。

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