アゲハ~約束~

2.

「ねぇ・・・アゲハ、泣かないで。」

「あたしのどこをどう見たら泣いているように見えるのかしら。」



 部屋で夏休みの宿題と向かい合うアゲハの背中に、さっきから夏梅は必死に声をかけていた。

 遮二無二数学の問題に取り組む姿。

 ―――その姿が、彼女には泣いているようにしか見えない。



「別に彼がどこへ行こうと構わないんじゃない?」

「もうっ・・・可愛くないよ、アゲハ!」



 素直じゃないアゲハに、夏梅は痺れを切らして立ち上がるとその肩をつかんだ。



「好きなんでしょう?」

「――――・・・」

「ルフナのこと、好きでしょう?」

「・・・なんで・・・」



 あんたが泣きそうなのよ。


 ゆがんだ親友の顔をみて、アゲハは複雑に笑った。

 その頬に手を伸ばして、触れる。



「本当に・・・なんでもないわよ。」



 何にも、ない。

 言い聞かせるようにそういうのは、夏梅に?


 それとも、自分に?


 アゲハ自身、それがわかっていなかった。


 好きでしょうと、聞く夏梅。


 けれど、その問いにうまく答えることは出来ない。
 彼といると安らぐ。


 あこがれる。


 けれどそれは彼の素直さに純粋に惹かれているだけであって、愛だの、恋だの、そんな小難しいものではない。


 ―――そうにきまってる。


 だから、彼がどこに行こうと、寂しくなんて、ない。


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