アゲハ~約束~

7.

 動けない。


 ベッドの上に座ったまま、アゲハは虚空を見つめていた。


 その瞳には、何もうつっていない。


 ただその目の前には、フィルムが三本。

 写真72枚分が転がるだけ。


 どうしたらいいの?


 何も判らなかった。

 自分が息をしているのか、していないのかも、わからない。




 生きているのか、生きていないのかも。




 四肢は冷たく冷え切って、動かそうとしても動かせなかった。


 心にどおんと大きな重いものが乗っかって、それが風通しのいい大きな穴を開けて。


 ―――頭の中が、空っぽだった。


 何をしていいのかも、したいのかも、わからなかった。

 ―――何も。




「・・・アゲハ?」



 キィ・・・とドアが軋んで、向こうから誰かが入ってきた。

 それは幸人と夏梅なのだが、今のアゲハにはそれが誰かを認識する気力すらない。

 視線すら動かさず、彼らが入ってきたことに気付いているのかも、微妙だった。


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