恋花よ、咲け。
健吾がその場を去ってからも
高木は暫くそこにいた。
俺も 渡り廊下の北校舎に面した角に隠れ
高木の様子を見守った。
高木はずっと 自分の心臓を確かめるように
胸に手を当て 深い呼吸を繰り返した。
その仕草が 健吾を思ったために
必然的に起きたものだというのは
確実だった。
______タン。
何分ぐらいだろう。
その場を動こうとしなかった高木が
そっと足を出したんだ。
………北側校舎に。
俺らの教室は 確かに北側校舎にある。
だから 健吾が南側校舎に行ったのは
確かに不思議だ。
…ぅっわ ゃべ。
俺は急いで 目の前の中央階段を駆け降りた。
高木がずっと俯いていたのが幸い
彼女は気が付いていないようだ。
ゆっくりとした足取りで
高木は階段を上っていった。
それを見届けてから ふと大峯が頭に浮かぶ。