恋花よ、咲け。
徐々にスピードを上げていく。
次第に 大希のミットからなる音が
大きく よく響き渡るようになる。
気が付けばもう 周りの奴らは帰っていき
また 体育館と外灯だけが俺らを照らす。
「……もう 帰ろう。」
言い出したのは俺だった。
いつもなら 大希が疲れ果てて
俺の方に のろのろと歩み寄るのに。
「何だよ 珍しく早上がりだな。」
そう言っておきながら
もうすでにスパイクの紐に手をかけている大希。
「今日のボールは 揺らぎすぎだ。
お前 大会の前日にフラれたら
あんなボールで勝負するのかよ。」
体育館から 終礼の声が聞こえる。
「…大会の前日に 告ったりしねーよ。」
「だよな。」
いつもとは少し違う 優しさを秘めた大希に
妙な居心地悪さを感じながら
帰りの支度を急いだ。
時刻は7時20分。
いつもに比べれば ずっと早い時間だった。
大希はチャリ通、俺は電車。
方向だって 正反対だから
大希とは門で分かれた。