恋花よ、咲け。




奈穂が俺に優しくするほど
俺らが 恋人らしくなるほど
それは頻繁によぎるようになった。


奈穂はよく俺に "好き"と言う。


それは 俺に伝えるのではないように
まるで自分の気持ちを確かめるように
自分の気持ちを封じ込めるように
奥に潜めた悲しみを隠すように
虚しい他ない 静かな声で。


俺を好きならどうして
弘也を見るたびに ぎゅっと俺にすがるんだ。


俺を好きならどうして
そんなに悲しい顔をするんだ。


俺が好きじゃないならどうして
そんなに優しくしてくれるんだ。


教えてほしいよ 全部 全部。


何で俺にすがる?


何で俺を選んだ?


あの日あの時あの場所で 一体何があった?


どんな言葉を交わした?


何がどうなればこうなるんだ。


弘也が舞未と付き合って
奈穂が俺と付き合って。


奈穂はなにも話さない。


だから 無理に聞くのも悪いから
ずっと 気にしてないフリばかりしてきた。


「…ご? んご? 健吾!」


そう。


奈穂の声が聞こえなくなるぐらい
いつもこうやって 考えていた。




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