恋花よ、咲け。
______ドクッ。
心臓が 大きな音を立てて鳴り出す。
前から階段を上がってくるのは
ずっと慕ってきた人。
いつものようなキリッとした雰囲気から一変
友達と楽しそうに微笑むその姿は
奈穂の心を掴んで離さない。
思わず 足の歩を遅め
見つめてしまう。
長い間見つめれると
さすがに気が付かれる訳で
弘也と奈穂の目があった。
「…っ……!」
奈穂はばっと目をそらし
おどおどしながら 階段を駆け下りた。
今学期、話せたのは
4月の終わり頃だけ。
佐々木の件がきっかけで 少しだけ近付いた。
だけど あの東階段の一件以来
全く話していない。
何度だって話しかけようとしたが
なんてったって あの弘也だ。
いつも周りを囲むのは沢山の人。
話しかけにくいのは 当然の事。
だから いつも見ているだけ。
夏服になっても尚、その爽やかさは失わず
ますます虜になっていくのを
身をもって感じていたのは 言うまでもない。