恋花よ、咲け。
「…わり、ちょっと便所。」
やっぱり こういうのは得意じゃない。
高木なら離さないで
ずっと自分のそばにいさせるのに
他の女は 本当に受け付けない。
やっぱり 自分の本当に惚れた女は
いつも自分の届かない所にいる。
「はぁー…。」
図書室から出て
トイレなんかいかずに 階段を上がり
グラウンドが綺麗に眺められる
非常階段に出た。
口五月蝿く鳴くセミの音を
少し心地よく感じたのはきっと
余計な感情のない鳴き声だったからだろう。
もう、戻りたくないな。
このまま 逃げてしまおうか。
…できるなら そうしたいさ。
そんな事を考えていた時。
______ガチャ。
廊下の扉が開き
冷たい空気が後頭部に吹き付けた。
「…おう。」
遠慮がちに声をかけてきたのは健吾だった。