二人のひみつ基地
頬に冷たい感触
「きゃっ」
驚いた私は悲鳴を上げた。
頬に当たったのは冷たい缶ジュース
「よかったぁ。間に合った」
息を切らして大きな1メートルほど黒い横長のカバンを肩に掛けた伊織君が
私の目の前に缶ジュースを差しだした。
「沙織ちゃん一人?」
「うっうん」
「彼氏は?」
「家が反対方向だから……先に電車に乗って行った」
「そうだよね。俺達の家近辺は人口少ないもんね」
そう言って私の隣に腰を掛けた。
肩に掛けてあった大きなカバンを大事そうにその腕に抱き寄せた。
「まさか沙織ちゃんにこんな形で会うなんて思っても見なかったな」
「うん」
「陸の手柄だな。S高から人を呼んで来いって脅したからね」
「えっ?伊織君が陸君を脅したの?」
「うん、あいつってさ、マイク持つと人が変わるんだけど普段は人見知りが激しくてさ。でも、五人も連れて来てくれてあいつ、よく頑張ったな」
頑張ったって言うより……
愛子が話し掛けたからかもと思った。
陸君も私と同じで自分から人に話し掛けるタイプじゃない。
向かいのホームから何人かの女の子の視線。
さっきのライブに来ていた子みたいで私と伊織君が気になる様子でこちらにずっと注目している。
その子たちに気が付いた伊織君がそちらを見つめるとその子たちは一斉に伊織君に手を振った。
それに答えて伊織君も大きく手を振る。
彼女達が飛び上がって喜んでいる。
ちょっとしたアイドルみたいだ。