二人のひみつ基地
「伊織君……」
伊織君が顔を上げた。
裸になった私を見て目を丸くしている。
「もう、あの頃の私はいないの。何処にもいないの。世界中捜してもいないの。これが今の私。ごめん……伊織君傷つけて……ごめん」
「俺だって……沙織ちゃん責めるのはお門違いだって分かってるよ。でも……原点がそこ何だから……どうしようもないんだ」
私たちは裸で向かい合った。
恥ずかしさと四月の雨に濡れて冷たい身体がブルブルと震え出した。
これに耐えなければ伊織君の苦しみも分からない。
伊織君の手が濡れた私の髪に触れた。
「沙織ちゃん……震えてる」
寒さで震えて歯がかみ合わなくてカチカチと鳴りだした。
「そうだよね。これが今の沙織ちゃんなんだよね。あの頃の沙織ちゃんは……もう……いないんだよね」
私は無言で頷いた。
伊織君は震える私を自分の胸の中に引き寄せた。
伊織君の身体も冷え切っていた。
頬に冷たい伊織君の肌を感じた。
シルバーのネックレスが伊織君の胸元で揺れた。