二人のひみつ基地
「ねぇ、沙織ちゃん。このまま一緒に……風呂で温まろう」
もう、何をされても抵抗しないと決めた。
伊織君が望むならあの止まった時間を動かせるなら私はそれでいい。
「いいよ。伊織君がそれで昔の私を消してくれるなら」
私は伊織君とそのままお風呂に入った。
出しっぱなしになっていたお湯が溢れていた。
お互い何も言わずにあまり大きくない湯船に二人、身体を丸めたままじっとしていた。
「沙織ちゃん……ごめん。こんな事言うつもりでここに連れて来たわけじゃないんだ。それにちゃんとした彼氏がいるのにこんな事させてごめん」
私は身体を丸めたまま首を振った。
「光哉君は彼じゃない。でも今日好きだって言われたんだ」
「付き合うの?」
「まだ……分からない」
「そう。凄く……沙織ちゃんが好きみたいだったよ。彼」
湯船の中で片方の肩が触れ合ったまま見つめ合った。
「伊織君は彼女は?」
「今はいない。俺って……きっと女の子から見ると最低な男だもん。だから……もう彼女はいらない。好きな子が出来るまでね」
伊織君はそう言って大きなため息をついた。
「バンド……辞めちまおうかな。バンドしてるとさ……誘惑が多すぎて……また同じ事繰り返しそうで。俺は楽器さえいじっていればそれでいいんだけど」
「あんなに上手でカッコイイのに……勿体ないよ」
「あいつら……高校生になって……本格的にバンド活動やるって張り切ってるしなぁ。今、俺が抜けると……後を捜すのが大変だし」
「そうだね。伊織君みたいにギターもキーボードも出来る子って少ないんじゃない?」
「でも……バンド続けてまた壊れたら……沙織ちゃん……またこうして俺の傍に居てくれる?」
「いいよ。伊織君が私を必要とするなら傍に居てあげる」