二人のひみつ基地
その夜、服が乾いていない事もあって私は家に嘘をついて伊織君のマンションに泊まった。
伊織君は、私を抱きしめただけでキスの1つもしようとしなかった。
そう、あの頃と変わらない幼いままの二人だった。
周りから見れば私たちの関係はどう映るだろう。
朝、目を覚ますと、私は裸のままで、同じく裸のままの伊織君に抱き締められて毛布に包まっていた。
「一緒に入る?」
その一言が今の現状を作りだした。
私は何度も瞬きをして現状を受け入れようとした。
そして、伊織君の腕から抜け出そうとすると伊織君が目を覚ました。
端正な顔が間近に合って急に恥ずかしくなった。
そんな私を察知してか伊織君が先に毛布から抜け出して隣の部屋で乾かしていた私の服と下着を持って来てくれた。
「駅まで……送るよ」
「うん」
私たちはそれ以外喋らなかった。
外に出ると夕べの雨が嘘のように止んでいた。
太陽はすっかり高い位置に来ていた。
駅までの間、伊織君と携帯番号の交換をした。
「また……壊れそうになったら……電話していい?」
「うん。いいよ」
「沙織ちゃん……昨夜はありがとうね。ずっとそばにいてくれて」
伊織君はあの逆鱗に触れた一言から初めて笑ってくれた。