二人のひみつ基地
鉄の扉を開けて、屋上に出ると何人かのグループが弁当を食べていたり友達同士で話しに夢中になっていたりカップルが二人だけの世界に入っていたりと、こちらに目を向けるグループはいなかった。
陸君は校庭が見下ろせるフェンスまで近づいてから、やっと私の腕を離してくれた。
「ごめんね。強引に引っ張って来てさ」
毛先を遊ばせている陸君の髪が揺れる。
「伊織君の話って何?」
陸君がフェンスに凭れて
「あのライブがあった夜、終わって直ぐに伊織が沙織ちゃんを追いかけたんだけど伊織に会った?」
「うん、電車で一緒だった」
「ふーん。伊織は沙織ちゃんに会えたんだ」
「うん。家が同じ方向だし」
「僕ね、あの後、僕達のひみつ基地、つまり伊織のマンションにアンプを戻しに行ったんだ。うちのお母さんの車で送って貰ってね。でも、玄関に女の子のパンプスが脱いであったからいきなり上がり込むのも悪い気がして、伊織を呼んだんだけど……」
陸君は、無表情のまま、夕べのことを話し始めた。