二人のひみつ基地
「話しはそれだけ?」
開き直った口調で、自分で驚くほど冷め切った声が出た。
「あのさ、沙織ちゃん。伊織は辞めといた方がいいよ。それに一緒にライブを見に来てた彼氏を裏切っちゃいけないよ。そりゃぁ、伊織は男の俺から見てもカッコイイし、ギターもキーボードも出来て魅力的だとは思うけど、沙織ちゃんみたいな真面目な子には手に負えないから。こんな事忠告する義務は僕にはないんだけど、沙織ちゃん同じクラスだし……泣く所みたくないんだ」
陸君の優しい忠告に私は薄く笑い返した。
「心配してくれてありがとう」
そう言って陸君に背を向けて立ち去ろうとしたら、また腕を掴まれて
「ファンの子ならさ、伊織に勝手に言い寄って自業自得な所があるから、そんなに心は傷付かないだろうけど、沙織ちゃんは違うだろ?あいつの元彼女何だからさ。心の傷が浅い内に……身を引いた方がいいよ」
私は背中を向けたまま
「うん。ありがとう。でも、伊織君の事よく知ってるし、そんなに陸君が言うほど、悪い子じゃないよ」
「多分、昔のあいつとは違うよ」
私は首を振った。
「ううん。何にも変わって無かったよ」
「彼氏を振って、伊織と付き合うつもり?」
私はもう一度首を振った。
「光哉君は彼じゃないし、伊織君に付き合おうとも言われてないよ。携帯番号とアドレスを交換したけど」
「一晩だけの関係って事?それとも身体だけの関係を続けるつもりなの?」
陸君の呆れたような声色に
「そんな言い方しないで!!」
私は大声を上げ、陸君を睨みつけた。
「私達はそんなんじゃないの。そんなんじゃないの……」
そう言いながら、どうしていいか分からず、涙ワッと溢れて来た。