二人のひみつ基地
ステージ手前に置いてある大き目の楕円形のテーブルに着いてシークレットの五人が休憩を始めた。
中腰で立っていた愛子が
「今なら中に入れるんじゃない?」
「そうね」
女の子三人でそっと防音加工されたドアを押して中に入った。
「真澄」
幸広君が自分の彼女の名前を呼んだ。
真澄ちゃんは嬉しそうに幸広君の隣に駆け寄った。
「沙織ちゃん、来てたんだ」
伊織君が席を立って私に近寄って来た。
「うん、さっきから聞いてたんだけど……中に入り難くって」
「そう、気を使わなくても良かったのに」
私の手を引いて自分の座っていた隣の椅子へと促した。
私はドアの前に立っている愛子を手招きして
「ほら、愛子もこっち」
陸君の隣の席へと招き寄せた。
「うん」
愛子は陸君の隣の席へと駆けよった。
陸君は愛子に椅子を引いてくれた。
「伊織が沙織ちゃんを誘ったのか?」
陸君が伊織君に尋ねる。
伊織君は小さく頷きながら
「うん」
「来て良かったの?今日はファンの子立ち入り禁止だったんでしょ?」
伊織君のほうを向いてそう尋ねると
「うん、そうじゃなきゃ呼ばないよ。色々揉めるしさ」
「伊織のファンって血の気が多いからな」
海人君が冷やかし交じりにそう言う。
「何だよそれ……」
「伊織が特定の子誘うのって初めてだよな。本命?」
海人君の問いに私は伊織君と顔を見合わせた。
「元本命だろ」
陸君がポツリと言って伊織君と少しだけ視線を絡めた。
「まぁ、そんなとこ」
伊織君がそう言いながら飲んでいた缶コーヒーを口に付けた。
陸君との昨日の事を聞いているので気まずい雰囲気だった。
伊織君の怪我は唇の端にはまだ傷が残っていた。
伊織君の唇を見て夕べのキスを思い出し、急に顔が火照り出した。