二人のひみつ基地
「伊織が陸はルックスが最高だから、ボーカルに入れると俺達絶対に人気が出るぞって脅してでも勧誘しようってさ。その後はもう強引だったよな」


幸広君が笑い飛ばしながらそう言った。


そんな幸広君を真澄ちゃんが嬉しそうに見ている。


真澄ちゃんは物凄く幸広君の事が好きみたいだ。


見ているこっちの顔が綻んでくる。


「陸のお陰で俺達は今、地元じゃ結構有名だよね」


健也君がサンドイッチを摘まみながら言う。
「僕のお陰じゃないよ。みんなの演奏が上手だからだろ?」


「イヤ……バンドはボーカルの顔と声が命だ」


伊織君が頷きながらそう言って一回お絞りで手を拭いてからサンドイッチを摘まんで隣に座る私の口元に当てる。


私は夕べの事が蘇ってサンドイッチにパクリと食い付いた。


「美味しい?」


「うん、美味しい」


一瞬だけ伊織君と見つめ合った。


急に回りの空気が静まり返ったような気がしたが私は気にせずにお絞りで手を拭いてからサンドイッチを摘まんで伊織君の口元に運んだ。


伊織君も笑みを浮かべながらサンドイッチにパク付いて


「本当、美味しい」


夕べの続きみたいで、嬉しかった。


シーンと静まり返った中で健也君が席を立って


「俺、トイレ行ってくる」


そう言ってスタジオから出て行った。



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