彼氏に一方通行
「どうしよう……。田所、帰っちゃったよー」

「悠斗なら帰ってねぇよ?」

「なんでわかるの?」

「俺が悠斗で悠斗が俺だから」

「何ソレ、意味わかんない」



瀬那くんは、「多分、悠斗あそこ」と、背の高いスライダーの横にある三階建ての休憩所を視線で指す。うじゃうじゃと、日陰を求めてやって来た大勢の人々でごった返しているそこ。カラフルな無数の水着に彩られていて、目がチカチカする。


あの中から田所を探し出せと?


そうするしかないか。

瀬那くんにウダウダ愚痴をこぼしたところで、何も解決しない。ちゃんと田所に伝えないと。そして直接、田所の気持ちを確かめないと。



「行って来る」

水面下に潜って浮き輪の中から脱出し、瀬那くんに向かって言った。


「ん。俺の分も幸せになって」

瀬那くんは、冗談っぽくではあるけれど、切ない言葉を返して来た。痛いんだよなぁ、これ……。


「うん。なんか、瀬那くんのこと踏み台みたいにしちゃってごめんね?」

「いや、別にいんだけどさー、それ、一々言わんくて良くね?」


不満げに言うも、瀬那くんはすぐ、柔らかい笑顔を見せた。つられるように私も笑った。


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