彼氏に一方通行

腹筋だけでガバリと上体を起こした田所は、責めるような目で私を見た。だからか、無性に泣きたくなった。



「田所は……瀬那くんと私、どっちが大事なの？」

「お前なぁ、『仕事と私、どっちが大事なの？』みたいな女特有の理不尽な質問すんな。答えられるか、そんなもん」

「だって田所、瀬那くんばっか大事にして、私のことは……」

そこまで言ったら、また視界が滲んできて、また田所が困った顔をして、どうしたらいいかわからなくなって、キュッと唇を結んだ。


必死に堪えようとしたれど、無理だった。ポロっと一雫、目から溢れ出たそれは右頬を伝って落ちた。



「大事の種類が違う」

ぼそっと。田所は酷く言い辛そうに呟いた。


「それって……私のことも大事ってこと？」

「当たり前だろーが。何を今更……」


ぐわぁーっと何かが込み上げてくるけど、それが何なのかは良くわからない。目の奥も胸の奥もじんじんして熱い。その正体不明の激情は涙となって、ボロボロと止め処なく目から溢れ出た。