ひとまわり、それ以上の恋

 ついでに沢木さんの名前は千尋っていうんだって。団子三兄弟なのに、女のような名前をつけられて……それは母の願望だったとか、そんな話を聞いたりもした。

 ディテールに至るまで精巧かつ繊細で女心を掴んで離さないデザイン――これが男の人の頭脳から生まれたのだとは信じがたいぐらい。そんな優羽さん自身を見ると、弟の沢木さんよりもずっと中性的で甘い雰囲気。白馬の王子さまといったらこういう人かもしれない、と想像する。

 不意に市ヶ谷さんと目と目が合って、私は内心見透かされたような気がして恥ずかしかった。別に優羽さんに見惚れていたわけじゃなくて、才能に感心していたのに。

「それで、菊池さんはどれがよいと思いますか?」
「Pussycat Dolls …がいいと思います。コンセプトもはっきりしていますし」

 市ヶ谷さんとのやりとりを頭の中で必死に打ち消しながら、優羽さんに伝える。すると彼もその方向で考えていたのか嬉しそうだった。

「10パターン出したんだけど、3パターンまでに絞りたいんだ。あと2つ」
「それだったら……」

 いつの間にか優羽さんと盛り上がっていて、市ヶ谷さんはすっかり保護者状態。

「――で、市ヶ谷さん、どうでしょうか」
「うん。いいんじゃないかな」

 元からある程度の話は進んでいたのか、それからも滞りなく、話は纏まったのだけど。

 私の心の中にはいつまでも靄がかかったままだった。
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