ひとまわり、それ以上の恋
「市ヶ谷さんのことが、好きなんです。もう手遅れなんです」
泣いたりしたら卑怯だ。だからダメ。なのに視界が揺らぐ。市ヶ谷さんの表情が滲んで見えた。
「……君には、もっと相応しい人がいるはずだよ」
市ヶ谷さんにとって私は彼の好きだった人の娘でしかない。君のことは好きになれないってはっきり言ってくれたらいいのに、そうじゃない。それじゃ納得できない。
「相応しい人ってなんですか。勝手に誤解しないでください。父と市ヶ谷さんは違う!」
「年の差を考えてみよう。君はまだ若いんだ。僕はどうしたって君より先を行く。それを覚悟できるの? 君は、お父さんの影を見てるんだよ。はやまらないで欲しい」
「私のこと嫌いですか?」
「嫌いじゃないよ。だけど恋をする相手にはなれないんだ」
もう押し問答でしかなかった。これまで抑えつけていた感情が一気に溢れだして、言わずにはいられなかった。これ以上は止められなかった。
「市ヶ谷さんは私をちゃんと見てないんです。私はちゃんと市ヶ谷さんを見てます。年の差なんて関係ないんです。娘だからだとか一目惚れがデジャブや錯覚だとか、そんな風に子ども騙しにしないで。大人になって欲しいっていうなら、ちゃんとした理由をください」
それ以上の答えを聞きたくなくて、私は助手席のドアを開けて飛び出した。
……好きになって欲しい、だなんて我儘言わないから、好きでいるぐらいは許して欲しい。せめて、私のこの気持ちをそんな風に否定しないで。
「菊池さん。待って」
「私、社に戻ります」
もう何も言わないで。
もう何も聞きたくない。
私は車から降りて手早くドアを閉め、走り出した。一刻も早くそこから離れたかった。
泣いたりしたら卑怯だ。だからダメ。なのに視界が揺らぐ。市ヶ谷さんの表情が滲んで見えた。
「……君には、もっと相応しい人がいるはずだよ」
市ヶ谷さんにとって私は彼の好きだった人の娘でしかない。君のことは好きになれないってはっきり言ってくれたらいいのに、そうじゃない。それじゃ納得できない。
「相応しい人ってなんですか。勝手に誤解しないでください。父と市ヶ谷さんは違う!」
「年の差を考えてみよう。君はまだ若いんだ。僕はどうしたって君より先を行く。それを覚悟できるの? 君は、お父さんの影を見てるんだよ。はやまらないで欲しい」
「私のこと嫌いですか?」
「嫌いじゃないよ。だけど恋をする相手にはなれないんだ」
もう押し問答でしかなかった。これまで抑えつけていた感情が一気に溢れだして、言わずにはいられなかった。これ以上は止められなかった。
「市ヶ谷さんは私をちゃんと見てないんです。私はちゃんと市ヶ谷さんを見てます。年の差なんて関係ないんです。娘だからだとか一目惚れがデジャブや錯覚だとか、そんな風に子ども騙しにしないで。大人になって欲しいっていうなら、ちゃんとした理由をください」
それ以上の答えを聞きたくなくて、私は助手席のドアを開けて飛び出した。
……好きになって欲しい、だなんて我儘言わないから、好きでいるぐらいは許して欲しい。せめて、私のこの気持ちをそんな風に否定しないで。
「菊池さん。待って」
「私、社に戻ります」
もう何も言わないで。
もう何も聞きたくない。
私は車から降りて手早くドアを閉め、走り出した。一刻も早くそこから離れたかった。