ひとまわり、それ以上の恋
「黒河美羽《くろかわ みわ》です。社長秘書をしています。これからよろしくね」
 この秘書課の中でも、一番若い彼女が、社長秘書。ということはそれだけ有能ということだろう。

 さっきから緊張の連続だけれど、美羽さんにはどこか和ませる雰囲気があって、私をホッとさせてくれた。

 彼女が教育係なのだったら、なんだかうまくやっていけそう。

「あとのことは、任せましたよ」
 室長は美羽さんにそう声をかけてデスクに戻っていった。

「さっそくなんだけど、お待ちかねの人がいるの。案内するわね」
 美羽さんに促されて秘書室を出ると、再びエレベーターへ連れられてきた。

 四十八階を押して、美羽さんは言う。

「ここから上は重役フロアになっているのよ」
 美羽さんが説明してくれる間も、回数はあがっていき、あっという間に四十八階に到着した。

 広々としたフロアの奥に、焦げ茶色の大きなドアが出迎える。
 そこには『副社長室』とプレートがついていた。

「あの……」
「大丈夫。緊張しないで。菊池さんを選んだのは、副社長なんだから」
 にこにこと笑顔を絶やさず、美羽さんが言う。

 ノックをすると低い声が響いて、緊張していた私の心臓の音は一気に最高潮に達した。

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