ひとまわり、それ以上の恋
オフィスの中を見渡したりして、同じくらいの年の男性社員を探した。
年齢が問題なんかじゃない。私が心を動かされたのは、たった一人しかいない。
一番問題なのは……私が、菊池円香であること。こんなに自分の存在が哀しいものに思えたのは初めてだった。小さな胸をコンプレックスに悩んでいたことが、ちっぽけに思えるぐらい、私自身を嫌いになってしまいそうだった。
先日の打ち合わせの時、優羽さんにデザインのことを褒められて、よかったらまた見せて欲しいと言われていた。だけど、今の私には何も浮かばない。
十七時。定時で退社。傘を開いてオフィスから出ようとすると、「菊池さん」と呼びとめられて声の方を振り返った。誰だろうと思ったら、沢木さんがこちらに息を切らして走ってやってくる。
雨の中、傘をもっていなかったのか、肩や髪が濡れている。私は咄嗟に傘を差し出して、背丈のある彼に合わせるように階段を一段昇った。
「良かった。間に合って」
ホッと胸を撫で下ろして、それから沢木さんはにっこりと爽やかな笑顔を見せた。
「お疲れさまです。どうしたんですか?」
一体なんだろう? と首を傾げると、沢木さんは脇に抱えていたバッグの中から小さな花束……ミニブーケを出して、私に手渡した。
ピンクと白のバラとガーベラ……。甘くていい香りがする。
「あの……これ」
意味が分からずに沢木さんを見ると、彼の方があれ?という顔をしていた。
「今日、誕生日だよね? 六月八日って聞いたけど」
「あ……」
「自分で忘れてたの?」
沢木さんが笑う。その通り、私はすっかり自分の誕生日のことなど頭になかった。
年齢が問題なんかじゃない。私が心を動かされたのは、たった一人しかいない。
一番問題なのは……私が、菊池円香であること。こんなに自分の存在が哀しいものに思えたのは初めてだった。小さな胸をコンプレックスに悩んでいたことが、ちっぽけに思えるぐらい、私自身を嫌いになってしまいそうだった。
先日の打ち合わせの時、優羽さんにデザインのことを褒められて、よかったらまた見せて欲しいと言われていた。だけど、今の私には何も浮かばない。
十七時。定時で退社。傘を開いてオフィスから出ようとすると、「菊池さん」と呼びとめられて声の方を振り返った。誰だろうと思ったら、沢木さんがこちらに息を切らして走ってやってくる。
雨の中、傘をもっていなかったのか、肩や髪が濡れている。私は咄嗟に傘を差し出して、背丈のある彼に合わせるように階段を一段昇った。
「良かった。間に合って」
ホッと胸を撫で下ろして、それから沢木さんはにっこりと爽やかな笑顔を見せた。
「お疲れさまです。どうしたんですか?」
一体なんだろう? と首を傾げると、沢木さんは脇に抱えていたバッグの中から小さな花束……ミニブーケを出して、私に手渡した。
ピンクと白のバラとガーベラ……。甘くていい香りがする。
「あの……これ」
意味が分からずに沢木さんを見ると、彼の方があれ?という顔をしていた。
「今日、誕生日だよね? 六月八日って聞いたけど」
「あ……」
「自分で忘れてたの?」
沢木さんが笑う。その通り、私はすっかり自分の誕生日のことなど頭になかった。