ひとまわり、それ以上の恋
案内されたバーは地下にあって十一段ほど降りていくと、骨董品のような飴色のドアに出迎えられる。看板には『Bar Misty』と書かれていた。
重厚なドアを開くと、漆黒のベスト、白いシャツ、蝶ネクタイというバーテンダーのユニフォームを着たマスターがグラスを磨きながら、クラシックジャズのBGMを邪魔しない程度に「いらっしゃいませ」と声をかけてくれた。
この間の外国人バーの賑やかさとは違って、ゆったりと寛げる空間になっている。八つ程ならんだカウンターの隅を選び、それぞれスツールに腰かけて、まずはモヒートで乾杯する。
ライムのさっぱりとした味わいが鬱々とした気分を拭ってくれるようだった。でも、喉が熱くなるぐらいアルコールは高いはず。飲みすぎないようにしないと。
ミニブーケを見て、思わず目を細めた。花嫁のブーケなんてロマンチックなんだろう。強引な人だけど……兄が言うような悪い人には見えない。それともこれが沢木さんの女性の口説き方なのだろうか。
バーテンダーに「フロート・カクテルを」と沢木さんが頼む。しばらくするとアプリコット色に染まったカクテルにチョコがけしたアイスクリームが浮いていて、飾りについていたスティックに火がつけられる。驚いて見ているとパチパチと花火が弾けだした。
「わ、すごい……素敵」
「ケーキの代わりに」
沢木さんは微笑んで、花火が終わる頃に、グラスをカチンと重ねた。
「沢木さん兄から聞くイメージとは大違いですね」
派手に遊んで女の人をぶら下げているような感じがするのに、すごく気配り上手でやさしい。
「どんなイメージ? 意識してくれてると嬉しいんだけど」
顔を覗きこまれて、条件反射でドキリとする。