ひとまわり、それ以上の恋
「付き合ってくれないかな? 椋が心配してるようなこと、円香ちゃんを泣かせるような真似はしないよ。一人と付き合ってる時は、ちゃんと真剣に向き合ってるんだ、これでも。信じるか信じないかは、円香ちゃんが判断してくれたらいい」

 沢木さんの顔は真剣だった。握られた手が熱い。私の冷え切った心に迫ってくる。

 沢木さんと私は、周りからしたら普通に見えるんだろうか。五つの差。兄ぐらいの年なら構わないとでもいうの? 傷つかない恋の方が幸せになれる? たくさんのこと考えた。

 だけど……。

 好きだから傷つくの。好きな人と幸せになれなければ、幸せの意味なんてない。

 恋の代わりは存在するかもしれない。でも、市ヶ谷さんの代わりはどこにもいない。

「ごめんなさい。私……沢木さんのことがどうとかじゃないんです。好きな人がいるんです」

「……そっか」

 沢木さんはそう呟いて黙りこんでしまった。こういう時ってどんな風にしていたらいいか分からない。

「菊池さんの好きな人って……もしかして、と思ってたんだけど、副社長のこと?」

 急に話題を変えられてドキリとする。沢木さんを見ると、なんだか彼の瞳は悟っているように思えた。急に汗が噴き出して、顔まで熱くなる。

「わ、私、そろそろノンアルコールにします」

「嘘はつけない性格なんだな。兄妹揃って」

 沢木さんは声を高らかにハハハと笑う。
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