ひとまわり、それ以上の恋
「あの、誤解しないでください。私の……片想いなんです。相手にされていないし、だから関係ないんです」

 ヘンな噂を立てられたら困ると思って焦ったのが間違いだった。

「そっか。まぁ副社長に憧れる女子社員も多いしなぁ。片想いなんだったら、チャンスはあるわけだよね。また今度デートに誘うくらいは」

 困惑していると、沢木さんは苦笑した。

「ゴメン。困らせるつもりじゃなかったんだけど。兄貴がライバルじゃないなら、まだ諦めつくかな。間違っても優羽についていかないで。選ぶんだったら、俺を呼んで」

 ムキになってる沢木さんを見て、兄とのやりとりや、井の頭公園に行ったときのことを思い出した。

「……沢木さんも、私の兄と同じじゃないですか。張り合ったりして」
「そうかもしれないな。いい女は皆、二人の兄貴に盗られてきたから」
「沢木さんでも……そういうことあるんですね」

「でも、って、俺はどんなイメージだったの。やっぱり椋に色々吹きこまれたって感じだね」

「いえ。逆恨みだっていうことは分かってます。兄の失恋の原因が……沢木さんだって」

「なるほどね。あとこれだけ言っておくけど、落ちなかった子は、円香ちゃんぐらいだよ」

 沢木さんは笑って、マスターにカクテルを注文する。それから沢木さんなりのコンプレックスを色々と聞かされた。

 長男の優羽さんはデザイナーとして、次男の直央さんはバーテンダーとして、それぞれ手に職があって有名であるのに、自分は一流企業に入れたものの地味な営業をやっていること。

 三男は大して手をかけられていないので、自由きままにやってきたことが良くなかった……とか。学生のときは付き合った女性の数で張りあうしかなかったとか。私は自分から喋るタイプじゃないから、沢木さんがそうやって喋ってくれると居心地が良かったし、楽しかった。


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