ひとまわり、それ以上の恋
花嫁のブーケをもらった人は、次に結婚できる――んだったっけ。一つの恋愛もまともにできない私には、結婚なんてまだまだ見えてこない。
もういっそ市ヶ谷さんが結婚してくれていたら、こんなに悩むこともなかったのかな。好きになんてならなかったのかな。
玄関を出たあと、最後にもう一回、コンパクトで顔をチェック。なんだか別人のようだ。こんな顔で市ヶ谷さんに会いたくないな……って、なんで事あるごとに彼のことばかり考えているんだろう。
出社するとあれこれ考えていたことは、杞憂に終わった。市ヶ谷さんは風邪でお休みなのだそうだ。
「めずらしく風邪でダウンしたなんて。お誕生日なのにね」
……誕生日。私はハッとする。そういえば市ヶ谷さんは私と一日違いなのだった。美羽さんから聞くと、市ヶ谷さん宛の贈り物が溢れていて大変みたい。
「副社長が顔が広いのは分かるけれど、群がる女性たちもいい加減に直接アピールして欲しいわよね」
峰岸さんが隣でため息をついている。秘書課では日常業務にプラスお礼の手配で追われていた。