ひとまわり、それ以上の恋
「いや、違う。由美さんは今でも拓海さんを愛してるんだよ。どうして君は、肩をもつの? 由美さんと僕がお付き合いをしても構わないつもり?」

 私は首を振る。
 それは嫌だよ。見たくないよ。

 ただ、私は、初めての恋を大切にしていたくて。
 この気持ちをあんな風に否定されたままではいたくなくて。

「市ヶ谷さんが、好き……この気持ちは、変えられないんです。年の差なんて関係ないんです。こういう事情があったっていい。昔に会ったからデジャブだとかそういうのよりも……今の自分の気持ちを信じたいんです」

 はがゆくて、もどかしくて、やっと出ていった言葉に、市ヶ谷さんは強く反論する。

「ただ好きでいさせてくださいって? それがどんなに辛いことか分かってて、君は言うの?」

「………」

 私は何も言えなかった。だってそれが市ヶ谷さんの本心ってことなんでしょう? 母のことを好きだけどどうすることもできなかった……それが辛かったって遠回しに言ってるんでしょう?

「お母さんのことは忘れて、私のこと好きになってください……って言われた方がずっと潔いよ」

 市ヶ谷さんはそう言って深いため息をつく。

 ついと向けられた視線にドキリとする間もなく、私の小さな身体は市ヶ谷さんの腕の中に吸い込まれていき、つよく抱きしめられて息が止まりそうになる。

 なんで、どうして、私……抱きしめられてるの?
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