ひとまわり、それ以上の恋
「たとえば、朝、起こしに行ったりすることも仕事の一つですか?」
「え?」
 美羽さんは大きな瞳をぱちくりとして、私をじっと見た。

「いえ、ごめんなさい。なんか映画とかの見すぎですよね。朝、起こしに行ったり、時々散歩を一緒にしたり、ディナーにお付き合いしたり……とか」
 言い訳を並べる私に、美羽さんはううん、と首を振る。

「たしかにオフィス以外でやることの方がずっとたくさんあるわ。ずっと一緒にくっついている感じよ。個人的なパーティに参加したり、健康管理の一つとして、ジムにお付き合いしたり、公私混同しちゃうこともたまに。

 どこまでサポートできるかどうかは……秘書の腕の見せどころかな。どんな風に尽くしてあげられるだろうって私もいつも考えてた。もちろん今も。でも、仕事から外れているとき、イヤなことはノーってちゃんと言っていいのよ」

 美羽さんにそう言われて、ホッとした。
 それから、市ヶ谷さんのことを色々聞いた。 

 オックスフォード大学卒業後、プライマリーに入社。入社当時からとても仕事の出来る人だったようで、これまでに管理職をいくつも経験。

 近年はロンドン支社長を長く務め、黒河社長がロンドンに転勤になっていたここ二年間は、彼がここの社長だった。そして黒河社長と交代する形で、彼は今、副社長という立場にいる。

 四十歳だといわれて私はそのぐらいだと思っていたけど、実年齢よりも見た目若くみられることが多いらしい。

 コーヒーや炭酸はあまり好まない。タバコは吸わない。お酒はワインのみ。特に赤が好き。暖色系のネクタイの色が好き。列車での移動は好まず、飛行機の方がよい。など……。

 それから、

 女性には優しいフェミニスト。ここの女子社員だけじゃなく、取引先、各業界、その他大勢……にモテモテの副社長。なのに、いまだ独身――。



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