ひとまわり、それ以上の恋
視界にバンと入ってきた悩殺的な裸体に、目を逸らすにも逸らせなくなっていて。
彼は、真っ赤になってしまった私の顔がよほど面白かったのか、声を立てて笑った。
「真っ赤だね。迷子の子猫ちゃん」
これにはさすがの私も縮こまるだけではいられない。
「か、からかわないでください。私、もう、どうしたらいいか分からなくて、ドキドキだったんですから」
というか今も。バイクのエンジン音は続いている。
ほんの少し倒れかかるぐらいで触れあってしまえるような二十センチも間があかない距離で、どうしたらいいか分からずに腰が抜けてしまっている。
市ヶ谷さんの頬に笑い皺が寄る。それはもう楽しそうにしてくれちゃって。
「ありがとう。足音も立てずに、しかも迷わないでここまで入って来られたのは、君が初めてだよ」
部屋数は結構あって、ベッドルームはいくつかあるらしい。
「ここに住んでみる? そしたら、いちいち朝早くに来なくてもよくなるよ」
せ、セクハラ……すれすれまで、近づいた彼の手が、私の毛先をするりと撫でる仕草をする。
「そんなっ……ムリです」
思わず言っちゃった。だって、こんな状況、いくつ心臓があっても足りないよ。