ひとまわり、それ以上の恋
「……1時間、ですか」


 イヤな顔をするつもりはなかったけれど、正直困惑した。
 だとしたら、私はどれだけ早く起きなくちゃいけないんだろう。

「辛いなら、ここに越してきて。見てもらえば分かるけど、部屋はあまるほどある」

「そんな、困ります」

 トルソーに着せたランジェリーを指さして、彼は言った。

「君もプライマリーのことをよく知っているはずだから、分かるよね。あのマネキンのようにモデルになってもらえると嬉しい」

「えっ、む、ムリです。そんなモデルなんて」

 咄嗟にそう口をついて出た。

「たとえば君が企画や開発にいっていたとしたら、当然のように毎日やることだよ。それが、僕と一対一になっただけのこと。そう思えば難しいことじゃないだろ?」

 ……それが一番、問題なんですってば。

「本当なら、モデルがいたけど……マタニティになっちゃったからね。“彼”の仕事だったんだけど。他に頼める子がいないんだ。なんでか分かる?」

 彼、というのは社長のこと。そして美羽さんのことが浮かんだ。

 それから、 ……なんとなく分かる。
 もしもそうしたら、下心でお付き合いを迫ろうとする人がいるからだ。

 ということは、市ヶ谷さんにとって、私は完全に『アウト』っていうことだよね。

 仕事の目をしたり、冗談っぽくからかったり
 私の顔色を窺って、いたずらに刺激したり……色んな彼がいて、本当が分からない。

 だけど、今は……真剣だ。


< 33 / 139 >

この作品をシェア

pagetop