ひとまわり、それ以上の恋
「あと三十分……くらいか。さあ、君も」
「いただきます」

 悠然と、優雅に、市ヶ谷さんはティーカップに口づけた。

 大富豪ローレンス一族である黒河社長のセレブな品格は言うまでもないけれど、市ヶ谷さんの品の良さはまた別に素敵だと思う。

背筋はいつもピンと伸びていて、一つ一つの仕草に余裕がある。スーツ一着にしても、彼なりの拘りがあるのが見え隠れする。

 ネクタイの柄だったりとか、タイピンやカフスだとか、同じような年代の人が彼を真似しようとしたところで、きっと同じような風格は出ない。

 朝陽が入りこんできて眩しい。店員さんがブラインドを下ろしてくれた。

 ちらちらと入ってくる陽に煌めく髪が頬にかかって隠れてしまってもったいない。大人の渋さと男の色香をまとった風貌はどの角度から見ても素敵だ。
「アフタヌーンティの作法は知ってる?」

 声をかけられて、私はハッと我に返る。

「あ、……お恥ずかしながら」

「CEOが来日したりすれば、君もお付き合いすることがあるかもしれない。覚えていて損はないと思うよ」

「そうですよね」
「今日のスケジュールはどうなってる?」

 突然聞かれて、私は慌ててバッグへ手を伸ばした。 
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