ひとまわり、それ以上の恋
出社すると、受付に同期の高梨《たかなし》さんの姿を見かけた。先輩社員について、まだ表情がかたいところが窺える。
きっと私もあんな感じなのかも。お互い頑張ろうね、と目配せをする。市ヶ谷さんは二人に「おはよう」と声をかけた。
たちまち二人の表情が明るくぱっと染まる。重役がいたら気を遣うところなのに彼の場合は違う。
オフィスで人とすれ違う度に、とても気さくに社員と話をしていている。女子社員にモテモテというだけじゃなくて、男子社員にも親しまれているみたいだ。
ロビーを行き交う女子社員を目で追って、市ヶ谷さんに似合いそうな大人の女性をついつい観察してしまい……、だんだん自信がなくなって猫背になってしまいそうになる。
それにしても、モデルになって……だなんて。
私が泣いてしまったばかりに、話がなあなあのまま流れていったけど、明日の朝からどうするんだろう。
なんとなく自分から聞けない。
エレベーターに乗って四十八階を押した後、ゆっくり扉は閉まり、そのタイミングで彼は口を開いた。
「あの件については今夜、説明するよ。君の仕事の方が先に終わったら、秘書室でそのまま待っていてほしい」
ドキリ。あの件っていうのはモデルのこと?
私の考えが読まれて気がして、内心焦りながら「分かりました」とだけ返事をした。