ひとまわり、それ以上の恋
「君も受付の子?」

 高梨さんの甘いテンションに置いていかれた私の方へ、沢木さんの視線が寄せられて、ドキッとする。

「いえ、私は秘書課です。あ、菊池円香と申します」

「菊池さんが秘書課の子か。新人から秘書をとることって滅多にないから、すごく興味があったんだよ」

「私もびっくりしてるんです。まさか秘書課に配属されるなんて」

「うちは希望配属叶うことは少ないからね。菊池さんの希望はどこだったの?」

 沢木さんは食いつくように私の隣をキープする。

「企画とか商品開発部に行きたかったんです」

「そっか。それもそれで競争率激しいね。男が7割で女が3割。俺も入社の時はそっち希望してたんだ。けど営業に行かされて気付けば五年だ」

 ……五年、ということは、お兄ちゃんと同期だったりして。

「でも、沢木さんは営業成績一位なんですから、天性だったんじゃないですか」
 体格のいい松坂くんが先輩によいしょしたいのか、白い歯を覗かせてそう言う。

「次期主任候補ですもんね」
 白石くんまで頷いていた。

「噂は噂だよ。出世にはあまり興味がないんだけどね、やるからには仕事は鬼だぞ」

 沢木さんはさらりと交わして、悪戯っぽく彼らに視線を流す。松坂くんと白石くんが慌てふためいていた。

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